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DXの実装で欠かせないアジャイルソフトウェア開発。 今回はこのアジャイルソフトウェア開発そのものではなく、そのメトリクスについて考えてみることにする。
メトリクス、一般には流布していない言葉だが、それは測定基準と訳される。 このメトリクスがあって、測定データは意味を持ち、物事を計測(*)することができる。 定量化における測定と計測、そしてメトリクスは単独では成立せず、これらが合わさって、一つのものになる。
(*) 計測は測定よりも広い意味で、「目的」を持って物事を定量的に捉えることである。
1982年にトム・デマルコは「測定できないものは制御できない」と言った。 そして2009年にトム・デマルコは「「測定できないものは制御できない」は誤りだった」と言った。 最初の1982年の言葉はソフトウェア工学の基盤になった。 私も1990年代から大学でソフトウェア工学を教えているが、いつも授業が始まる前にこの言葉を引用していた。
しかし2009年の言葉はこれを否定するように聞こえる。しかしそうではない。 確かに100万ドルのコストで5000万ドル以上の価値を作ることには1982年の言葉は向いていない。 もっと革新的な、言ってしまえば、アジャイル的手法で革新的なDXをするようなことが必要である。
一方、100万ドルのコストで110万ドルの価値になるように改善するのには、1982年の言葉は生きてくる。そうなのである。 2009年の言葉にはメトリクスが不要とは一切言っていない。改善をするにはメトリクスは必要なものである。 そして残念ながら、世の中には革新的なものより改善の方が圧倒的に多い。これはDXでもそうである。 2025年の崖をよじ登った世界でも、レガシーはデジタルよりも多いだろう。 そして私は2009年以降も大学生にメトリクスの話をしている。
閑話休題。 話をアジャイルのメトリクスに戻そう。アジャイルのメトリクスと言えば、直ぐに思い浮かぶのが、ストーリーポイントのベロシティである。 いつもこのように書いているが、これはアジャイルの一方言であるスクラムの言葉を借りている。 ストーリーを一般的な言葉に直せば、WBSに相当するだろう。 WBSをもっと一般的な言葉にすれば、要求仕様と言えるだろう。
このように3回くらいなぜなぜ分析のように言い換えてしまうと最初の言葉の意味からずれていくが、ここは目を瞑ることにする。 つまり、ストーリーポイントとは要求仕様の大きさを計る仮想的な点数のことである。 一方、ベロシティ(速度)とは、単位時間当たりに消化したストーリーポイントの合計になる。 つまり単位時間当たりに実装した要求仕様の大きさの合計である。
このストーリーポイントのベロシティをメトリクスに使うのは、一般世間の目からは、かなりいい加減だと思われるだろう。 ストーリーつまり要求仕様の大きさにはメートル原器に相当するものはもちろんない。 あやふやであいまいでおぼろげなものである。 こんなもので測定するとは、まったくデジタルでなく不確かなものである。
これは決して絶対評価には使えない。 ストーリーポイントのベロシティが大きいからと言って、AチームがBチームより優秀であるとは言えない。 ストーリーの粒度、ポイントの数え方が統一されていない。 これはファンクションポイントを一生懸命つじつまを合わせるような努力が全くなされていない。 この努力をしろと言っているのではなく、無駄だと言っているのである。 つまりベンチマークに使えない、見積もりに使えない数値である。
しかし相対的評価には使える。 そしてこれが重要で、これだけで価値がある。 例えば、同じチームで同じような仕事のときは相対的評価ができる。 あまりにも数値が離れていれば、原因を突きとめ、何らかの対応するなどのリスク対策に使える。 だからアジャイルでもメトリクスが必要で、測定が必要で、計測するべきである。
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